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【獣医師が解説】犬のフィラリア症と予防方法を解説

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犬を飼うと、予防の案内がたくさんありますよね。法律で義務とされている狂犬病の注射のほか、ノミ・マダニ予防、フィラリア予防、混合ワクチンなど、様々です。

中でもフィラリア予防に関しては、とても重要です。フィラリア症とは蚊が媒介する病気で、感染すると命に関わります。

フィラリア症は毎月の投薬、あるいは1年間効く注射などで予防することができます。
ここではフィラリア症やその予防方法に関して解説していきます。

犬のフィラリア症とは?

フィラリア症とは犬糸状虫(Dirofilaria immitis)という寄生虫に感染する疾患です。犬以外の動物にも感染します。

フィラリアは、成長過程に蚊の存在が必要です。そして最終的には終宿主といって、フィラリアが生活しやすい動物に感染します。そこでフィラリアは子供を産み増殖していきます。感染するとフィラリアは心臓や肺、血管などに住み着き、循環器に支障をきたします。

フィラリアがどのように感染していくかを見ていきましょう。

フィラリアの感染経路

  1. フィラリアに感染した犬の体内には、ミクロフィラリアと言われるフィラリアの幼虫がいます。蚊が血を吸う際に、血液と一緒にミクロフィラリアも吸い上げます。
  2. 蚊の体内に入ったミクロフィラリアは成長し、感染力をもった感染子虫になります。
  3. 感染子虫となったフィラリアは、蚊が次に吸血する際に犬の皮膚へ侵入します。
    侵入したフィラリアは、およそ3ヶ月程度で肺動脈に寄生します。

それまでは蚊の体内で生活していたフィラリアですが、この時点で細長いそうめんのような大きさをしています。
さらにその3ヶ月後には成虫となり、ミクロフィラリアを産みます。

1~3のサイクルを繰り返しミクロフィラリアが運ばれ、次の感染先へと広がっていきます。
そのため蚊に刺されない、あるいは感染している動物が近くにいなければ理論上フィラリア症にはなりません。

しかし実際には、全く蚊に刺されないようにするのは難しいですよね。また、予防薬を使用していないワンちゃんもいます。そういった子がもしフィラリアに感染していると、その子を吸血した蚊により愛犬が感染する可能性があります。

そのため、やはりフィラリア予防をしなければ感染してしまう可能性は十分にあります。

犬がフィラリア症に感染しているときの主な症状

フィラリア症では慢性経過を伴う場合と急性経過を伴う場合があります。フィラリアにとって犬の体内は、生きていく上で必要な場所です。

もし犬の体内でフィラリアが悪さをして犬が亡くなってしまうと、フィラリアは生きる場所がなくなります。
そのため基本的には犬の体内であまり害を与えず慢性経過を伴うことが多いです。しかし、急性経過を伴う事や、フィラリアが死んだ後も問題になります。

慢性犬糸状虫症(慢性経過)

フィラリアは肺動脈に寄生します。そのため血流に支障を来し炎症を起こすことで、肺や心臓の機能を障害します。少数寄生だと症状はあまり見られず、多くなると徐々に見られるようになります。

寄生数が増えてくると咳が出始めます。元気がなくなり食欲低下、さらに進行すると貧血や不整脈、呼吸困難に陥ります。

また、フィラリアは肺動脈でおよそ5~6年生存します。そして死んだフィラリアの虫本体が肺動脈に詰まってしまいます。それを肺血栓塞栓症といいます。

肺血栓塞栓症が起きると肺の循環が悪くなり、肺高血圧症や右心不全へと進行していきます。症状としては咳や呼吸困難、失神、元気食欲の低下、疲れやすい、黄疸、腹水、胸水などが見られます。

急性犬糸状虫症(急性経過)

急性犬糸状虫症は大静脈症候群とも言われています。発症前はほとんど症状がみられません。元気食欲は全く無く、呼吸困難や重度の貧血、血色素尿などがみられ、ほとんどの場合助かりません。

フィラリア症を防ぐには予防薬を使います

フィラリア症は予防することが肝心です。予防薬には、色々な種類があります。

薬の形態は4つあります。

  • 錠剤
  • チュアブル
  • 滴下
  • 注射

など

どの形状のお薬がより効果的、と言うことはありません。飼い主さんの薬の飲ませやすさや費用、また犬が食べてくれるかなどによって決めていきます。

錠剤・チュアブルタイプ

フィラリア単剤であるフィラリアのみに効果があるタイプと、ノミやマダニやその他の寄生虫にも効果がある合剤タイプがあります。

近年では重症熱性血小板減少症候群(SFTS)という、人にも感染するマダニが媒介するウィルスの病気が問題になっています。そのためマダニ対策をすることは、犬だけでなく人
にとっても重要です。

薬の選択にもよりますが、基本的には別々に駆虫するよりも合剤で駆虫する方が費用は抑えられることが多いです。

錠剤とチュアブルに関しては、チュアブルの方がオヤツ感覚で飲ませやすいです。どちらを選ばれても良いですが、できるのであれば投薬の練習も兼ねて錠剤タイプを飲ませることをお勧めします。

滴下タイプ

背中に垂らすタイプのフィラリア薬があります。錠剤がどうしても難しい子に関しては、こういった滴下タイプが良いでしょう。

体が濡れることを極度に嫌がるワンちゃんや、他の同居犬が舐めてしまう場合などは避けた方がいいかもしれません。

注射タイプ

1年間効果のある注射タイプのフィラリア薬があります。注射のため、毎月お薬を飲ませる必要はありません。

現時点では注射タイプはフィラリアのみにしか効果がありません。

注射タイプで注意したいのは、

  • 体重によって注射の量を調節するため、極端に体重が増えてしまうと効果が発揮できません。
  • 成長期の子犬はこれから体重が増えてくるので、使用することができません。

お薬を飲ませるのが苦手あるいは忘れてしまう、という飼い主さんや体重が安定している犬にはお勧めです。

犬のフィラリア予防はどこで行う?

フィラリアのお薬は要指示薬です。そのため獣医師の処方が必要なため、動物病院で購入します。
要指示医薬品(※)は自己判断で使用すると命に関わります。インターネットで販売しているものを見かけますが、安全面に関しては保証できません。

また、フィラリア薬を投与する前には血液検査が必要です。フィラリアに感染した状態でフィラリア予防薬を投薬すると、虫が一気に死滅し血管に詰まる可能性があります。

そのため、感染していないかを確認するために血液検査を行います。もし前の年に飲ませ忘れたフィラリア薬が残っている、という場合も自己判断で飲ませずに検査をしてから投薬をしてください。

犬の血液検査項目からわかることと見方については、こちらの記事で詳しく解説しています。

予防期間は、蚊が発生した1ヵ月後から蚊が発生しなくなった1ヵ月後まで飲ませます。東京付近では目安として5月から11月ぐらいまでの予防が必要です。

蚊の発生は気温によるため、地域により予防期間は異なります。お住いの地域がいつまで飲ませるべきかわからない場合は、かかりつけの動物病院に相談してみてください。

(※)要指示医薬品について:要指示医薬品とは? | 酪農学園大学動物薬教育研究センター

フィラリア症から守れるのは飼い主さんだけ!

病気の中には防げるものと防げないものがあります。フィラリア症に関しては、予防薬をきちんと投薬していれば、基本的に感染することはありません。

昔に比べてお薬のバリエーションが増え、投薬方法もだいぶ楽になってきました。飲み薬以外にも様々な選択肢があるので、一番続けやすい方法をかかりつけの動物病院に相談してみると良いですね。

この記事を書いた人

千葉 恵
獣医師

日本獣医生命科学大学卒業
卒業後、千葉県の動物病院にて小動物臨床に従事

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