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【獣医師が解説】犬の去勢手術の必要性とメリット・デメリット、適切なタイミングを解説

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子犬を迎えたら、ワクチンやフィラリア予防、そして避妊手術や去勢手術など、考えなければならない事がたくさんあります。

去勢手術をすることで、問題行動の抑制や性ホルモンに関連する病気の予防につながります。
一方で、子孫が残せない、太りやすくなる、全身麻酔が必要、などデメリットもあります。

手術すると元の状態には戻せないため、飼い主さんの慎重な判断が必要です。
今回は去勢手術について、それぞれのメリットやデメリットについて解説していきます。

犬の去勢手術とは?

去勢手術とは外科的に精巣を摘出する手術です。手術の際には全身麻酔が必要です。
まずは、血液検査にて麻酔がかけられるかどうかを確認します。犬の年齢や体の状態によっては、レントゲンなどの画像検査をすることもあります。

その後、全身麻酔下で左右2つの精巣を取り出します。
特に精巣に問題がなければ、手術時間はとても短く出血もあまり見られません。
動物病院によって異なりますが、1泊2日の入院になることが多いですね。
一般的な去勢手術はこのような形です。

一方で、潜在精巣という特殊な状態の場合があります。
通常、精巣は左右2つあります。潜在精巣ではお腹の中や、鼠径部の皮下に精巣が埋もれている状態です。

犬の精巣は、生まれた段階ではお腹の中にあります。
およそ生後1ヵ月程度になると、精巣が陰嚢と呼ばれる袋に下降してきます。

しかし精巣が陰嚢内に下降せず、お腹や皮下に残ってしまう場合があります。
生後6ヶ月を過ぎても陰嚢内に精巣が触知できない場合に、潜在精巣と診断します。
他に停留精巣や陰睾と呼ばれることもあります。

皮下に精巣が残っている場合は、精巣の場所が触診などで確認できるため、それほど手術時間はかかりません。

一方で、精巣がお腹の中に残っている場合は、避妊手術のようにお腹を開けないと手術ができません。そのため、通常の去勢手術に比べて時間やリスクを伴います。
しかし、潜在精巣を放置すると、腫瘍化する確率が上がってしまいます。

犬の去勢手術の必要性

オス犬の場合、マーキング、マウンティング、おしっこ時の足上げ行動などがあります。
これらの行動は去勢手術をすることで、減らすことができます。

さらに性ホルモンによる病気を予防できる、と考えると去勢手術を行う価値は十分あります。

寿命に関しては様々な研究があり、寿命が延びるという報告もあります。
寿命に関しては、その他の要因も絡んできます。
そのため、一概に去勢手術をすると長生きするとは言えませんが、少なくとも短くなるとは考えにくいです。

一方で、潜在精巣の場合は去勢手術をした方が良いといえます。
それは精巣腫瘍の発生リスクが、正常の犬の何倍も高まるからです。

精巣腫瘍は、ある程度の年齢を重ねてから出現します。
精巣腫瘍には悪性のものがあり、命を落とすこともあります。
残念ながら、ホルモン剤による内科治療は効果がありません。
そのため、麻酔のリスクや腫瘍の発生を考えるとある程度、若い時期に去勢手術を行う方が良いといえます。

犬の去勢手術を行うメリット・デメリット

犬の去勢手術のメリットとデメリットを確認しましょう。

去勢手術を行うメリット①マーキング、マウンティング、排尿時の足上げ

最新の研究でまだ議論されている部分もありますが、基本的には性ホルモンが減少することで、マーキング、マウンティング、足を上げての排尿などの問題行動は軽減されると考えられています。

しかし、一旦学習して覚えてしまうと問題行動が定着してしまい、去勢手術をしても治らないことがあります。

去勢手術を行うメリット②攻撃性の低下、ストレスの緩和

去勢手術をしても、犬の性格に関しては変わりません。
女の子っぽくなりますか?と聞かれることがありますが、性格はそのままです。

ただし、性ホルモンが減ることでストレスの軽減につながり性格が穏やかになるとは考えられています。

犬種による性格の違いはこちらの記事で確認できます。

オス犬の場合、発情中のメス犬が近くにいると追いかけたくなります。
しかし実際には交尾をさせてもらえないため、ストレスが溜まってしまいます。
去勢手術をすることで、そういったストレスを無くすことができます。

去勢手術を行うメリット③病気の予防

去勢手術では病気の予防もできます。

前立腺疾患

去勢していないオス犬では、良性の前立腺肥大症や前立腺炎などの前立腺疾患になりやすくなります。ちなみに、前立腺癌は去勢の有無は関係ありません。

会陰ヘルニア

会陰ヘルニアという肛門の周りの部分(会陰部)の筋肉が薄くなってしまう病気があります。薄くなってしまった筋肉の隙間に、臓器や脂肪が飛び出ます。
腸が飛び出てうんちが出ない、膀胱や尿道が飛び出し尿が出ない、などの症状が現れます。外科的に治療しますが、筋肉が薄いため、かなり大変な手術となります。

肛門周囲腺腫

肛門の周りにできる良性の腫瘍です。大きくなってしまうと、うんちが出にくくなることや、出血や感染を引き起こします。外科的に治療します。

去勢手術を行うデメリット①手術に対するリスク

通常の去勢手術は難易度が高い手術ではありません。
しかし全身麻酔が必要なため、麻酔リスクがあります。100%絶対に安全とは言い切れません。

去勢手術を行うデメリット②子孫を残せない

去勢手術をすると、将来その子の子孫を残すことはできません。
また、精巣を取り除くと二度と元に戻すことはできません。

そのため少しでも子孫を残すかどうか考えている場合は、安易に決断せずしっかりと考えた上で行ってください。

去勢手術を行うデメリット③太りやすくなる

去勢手術をすることで、太りやすくなる場合があります。
生後6ヶ月齢ほどの成長期で去勢手術を行うことが多いため、もしかしたら元々太りやすかった体質の可能性もあります。

しかし、男性ホルモンが減少すると一般的に筋肉が落ち、太りやすい体質になります。
また、性ホルモンの分泌がなくなるため、性欲の代わりに食欲が増すとも考えられています。
そのため去勢後太りやすくなる場合は、去勢後用のフードや肥満防止のフードに変えることがあります。

去勢手術を行うデメリット④その他の病気のリスク

犬の種類や去勢を行う時期によっては、十字靭帯断裂や腫瘍などの疾病リスクが考えられています。また、加齢に伴う認知機能障害のリスクについても議論されています。

愛犬に去勢手術をするタイミング

去勢手術を行うにあたり特にこの年齢でなくてはいけない、というものはありません。
最近の研究で、小型犬ではあまり当てはまりませんが、犬種によっては早期に去勢手術を行うと関節疾患や一部の癌のリスクが増加すると言う研究があります。

今後さらに研究が進むと、適切な去勢手術の時期のガイドラインが、それぞれの犬種によってできるかもしれませんね。

一般的に去勢手術は、性成熟する前の生後6ヶ月頃に去勢手術を行う場合が多いです。
何を重視するかによって、適切なタイミングは異なります。項目ごとに解説します。

問題行動の抑制をきっかけに去勢手術をする

例えば、オス犬は6カ月齢を過ぎてくると、足を上げておしっこをします。
去勢手術をすることで足をあげての排尿はある程度抑えられると考えられます。

しかし、おしっこ中に足を上げることが癖になってしまうと、直すのが難しくなります。
その点ではまだ足を上げない、早いうちに去勢手術をした方が問題行動は防げるといえます。

乳歯遺残がある場合に同時に去勢手術をする

6カ月齢では、乳歯遺残といって乳歯が抜けない状態の場合があります。乳歯遺残を放っておくと歯周病や歯並びに関係してくるため積極的に抜歯をお勧めします。
乳歯を抜く場合も全身麻酔が必要なため、乳歯抜歯のみも可能ですが、去勢手術と同時に行うケースが多いです。

病気の予防のために去勢手術をする

病気の観点で言うと、前立腺肥大や精巣腫瘍などはある程度年齢を重ねてから発症します。そのため焦って早期に行う必要はありません。

愛犬の去勢手術をするなら、動物病院選びはしっかり行いましょう

滅多にあることではありませんが、お腹の中の潜在精巣を残して、正常な陰嚢内の精巣だけ切除する動物病院がみられます。

お腹の中の潜在精巣は子供を作る機能はありませんが、腫瘍化する可能性があります。
そのため、去勢手術をするのであれば、必ず残さずに取り除く必要があるのです。

迷った時は獣医師とよく相談を

通常の去勢手術自体はそこまで難しい手術ではありません。
基本的に私自身も含め多くの獣医師は、去勢手術はメリットが大きいのでお勧めしています。
しかし麻酔をかけることですし、無理に行うものではありません。
最終的な判断は飼い主さんがするものです。

去勢手術の時期や、する・しないは、どちらもメリット、デメリットがあります。よく考えて、不安な点がある場合はかかりつけの獣医師に相談して、後悔のないように決めてくださいね。

この記事を書いた人

千葉 恵
獣医師

日本獣医生命科学大学卒業
卒業後、千葉県の動物病院にて小動物臨床に従事

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